わさビの鑑賞記録

つらつらと。

ひらいて

ひらいて

 

原作 綿矢りさ 

監督 首藤凛 

主演 山田杏奈

 

ーーーー高校1年生の頃からずっと好きだった、たとえ君。でもその人には秘密の彼女がいた。ーーーー

 

教室から始まるカット、その風景がたとえ君の席から見える景色になっていて、全ての物語はたとえ君から始まるんだと感じた。

 

たとえ君がみゆきを好きになったのはすぐに分かった。他人のために悲しめて、嬉しい時は笑う。そして自分のために微笑んでくれるみゆきは人としてもとても素敵だと心から思った。それとは対照的に愛が抱くたとえへの感情は「自分はたとえが好き」という事実だけで暴走し周りを破壊する。破壊したことにも気づいていない、破壊することがいけないことだとも思っていない。

 

愛は自分が人と何かが違うことに気づいていない。

 

たとえが愛に「嬉しいならそれを身体で表現しろよ」と命令口調になるシーン。愛にとってはそれができない。自分のために笑顔を作り自分の欲望のままに生きてきた愛にはできない。それに気づいた愛はどんどん狂っていく。その様子が滑稽で、でもなんだか美しかった。そこまでして誰かの隣にいたいと思える愛が羨ましいとさえ思った。

 

「自分が心をひらいていたのは誰だったのか」を知るのは卒業式の日にみゆきが愛にくれた手紙を読んでからだったけど、気づくのが遅すぎるような気がした。愛にとってのたとえ君は自分の全てで、自分の世界にはたとえしか存在していない。

「狭い世界で二人で生きていけばいい」とたとえに言った愛。

 

その言葉は自分に向けられているということも知らないまま大人になっていくんだろうか。二人しか存在しない世界の中でも自分を守ることに必死だった愛に残るものは自分しかいないとうことに気づかないまま大人になるんだろうか。

 

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山田杏奈ちゃんが演じる愛は異常でとても愛してしまいたくなるくらい狂っていた。杏奈ちゃんの目が笑っていないのに、惹き込まれてしまうあの目力がとても印象的だった。いつから山田杏奈ちゃんに注目していたのか忘れてしまったけど、ひらいてを見てもっと作品を見ないといけないなという使命感に襲われている。彼女が演じる役にはどこか空っぽな雰囲気があり闇とは少し違う。彼女が演じるからこその空虚感や身近に感じたことのある漠然とした悩みのような種。きっと消えることないような痛みや苦しみさえも自分が抱えているかのように感じる。