わさビの鑑賞記録

つらつらと。

宇宙でいちばんあかるい屋根 レビュー

監督:藤井道人

出演:清原果耶 桃井かおり 伊藤健太郎 吉岡秀隆 坂井真紀 水野美紀 山中崇 醍醐虎汰郎

 

あらすじ(公式より引用)

お隣の大学生・亨(伊藤健太郎)に恋する14歳の少女・つばめ(清原果耶)。優しく支えてくれる父(吉岡秀隆)と、明るく包み込んでくれる育ての母(坂井真紀)。もうすぐ2人の間に赤ちゃんが生まれるのだ。幸せそうな両親の姿はつばめの心をチクチクと刺していた。しかも、学校は元カレの笹川(醍醐虎汰朗)との悪い噂でもちきりで、なんだか居心地が悪い。つばめは書道教室の屋上でひとり過ごす時間が好きだった。ところがある夜、唯一の憩いの場に闖入者が――。空を見上げたつばめの目に飛び込んできたのは、星空を舞う老婆の姿!? 派手な装いの老婆・星ばあ(桃井かおり)はキックボードを乗り回しながら、「年くったらなんだってできるようになるんだ――」とはしゃいでいる。最初は自由気ままな星ばあが苦手だったのに、つばめはいつしか悩みを打ち明けるようになっていた。

 

つばめの気持ちとリンクする空 

 つばめの気持ちが沈んでいる時は少し雲が多くなり、気持ちが晴れている時はとてもきれいな夜空になる。透き通った青が似合う作品だ。映画を見終わっていちばん初めに感じたことは、毒のない映画、そして優しい。

 いちばん最初に映し出される空から街を眺めるような描写。まるで宇宙だ。「きれい」と言ってしまいたくなるくらい、澄んでいた。街並みを見て、澄んでいるなと感じることはあまりないかもしれない。それでもこの映画はすべてが爽やかだった。白が似合うような純粋さではなく、青が似合うのだ。それは始終映し出される夜空だけのせいではない。

 

つばめと星ばあ

 家族や学校のことで悩むつばめは、通っている書道室の屋上が自分の居場所のように感じているが、そこで出会うのが星ばあだった。出会いも唐突で、別れも唐突だ。つばめは星ばあに対して、最初は好意的な気持ちはなかったが、次第に心を開いていく。あの2人のツッコミを見ているとクスッと笑ってしまう。

 つばめにとって星ばあは特別な存在になっていく。それが所々で描かれている。水族館のシーンでは、台詞はほとんどなかったが、2人の楽しげな雰囲気も、つばめにとって星ばあが特別な存在であることも描かれていたように感じた。2人がお揃いのストラップを買った時、なんだか心が温かくなった。

 

演者さんの光る演技

 つばめの母である坂井真紀さんと、父である吉岡秀隆さん。丁寧で繊細な演技だった。それこそ、この映画を見た後に感じた「優しい」というのは、この2人の演者さんから感じたのかもしれない。

 坂井真紀さん演じる、つばめの育ての母は、つばめの実母が現れた時に突っぱねられる強さを持っていた。静かだがとても力強かった。血が繋がっている、いないなどは関係ない。と本気で思った。

 吉岡秀隆さん演じる、つばめの父。つばめが両親に暴言を吐いた時、叩くのではなく優しくつばめの頭を撫でた。そこにもどこか、強さも優しさも感じた。あの吉岡さんの演技で涙が溢れた。ただ、頭を撫でるだけの演技で、諭すだけで、父の強さも優しさも感じ取る事ができたのは、丁寧かつ繊細な吉岡さんの演技があったからなんだと思う。

 つばめの隣に住む大学生を演じた伊藤健太郎。普通を演じることは恐らく難しい。それでも、普通の大学生に見えた。家族思いで優しく、悲しい時は悲しいと表現する。よくいる大学生だった。この映画にふさわしいくらい、爽やかな演技で最後までつばめの隣にいてくれた。本作以外にもすでに、「今日から俺は!!」「弱虫ペダル」が公開されているが、どれも違う伊藤健太郎だった。伊藤健太郎史上一番爽やかだと思う。

 書道室の(牛山)先生を演じた山中崇さん。字にはその人の性格が表れる。とよくいうが、牛山先生はつばめが書いた字からつばめの心情を読み取るが上手だ。図星を突かれて反発するつばめでも牛山先生の前ではきっと嘘はつけない。山中さんが演じた牛山先生は優しいではなく、「温かい」という言葉がよく似合う。

 

星ばあの言葉

 「大人になればなんでもできるようになる」と言った星ばあの言葉ほど力強いものはない。

昔悩んでいた事がとてもちっぽけなものに見えてくる時がある。それでもあの頃の自分にとってはとても重大な事で、一生解決しないのではないかと思ってしまうほどだ。それが今では、乗り越えられている。そんな気がしているだけなのかもしれないが、そんな気がするだけでも過去の自分からしたら大きな一歩ではないだろうか。本作を観ていると、ただの日常がとても特別なように感じた。

 背中を押してくれる作品ではない。観た方が一歩踏み出すまで、強くなれるまでそっと隣にいてくれるような作品だと思った。こんなにも優しい映画に出会った事がない。

 

 強く背中を押されたわけではないのに、観た後に自分が一歩踏み出せたような感覚になった。とても爽やかで、優しく温かい作品に出会えて良かったと心から思った。