わさビの鑑賞記録

つらつらと。

君が世界のはじまり

君が世界のはじまり

監督 ふくだももこ

脚本 向井康介

出演 松本穂香 中田青渚 片山友希 金子大地 小室ぺい 甲斐翔真

 

 

本作は上映劇場が少なく、なかなか見に行くことができなかった作品。終映が間近に迫った今日、ようやく鑑賞することができた。

最近、松本穂香という女優から、目が離せなくなっている。いつから気になっているのかも、どの作品から気になっているのかも記憶にはない。ただ一つ、記憶があるのなら【JR SKI SKI】のメインキャストに選ばれたことがきっかけで知ったのは確かだ。それから何作かに出演しているが、コレが好きと胸を張って言えるものはいまだにないのが現状だった。

そんな彼女だったが、ポスターに映された彼女の瞳に吸い込まれた。本作が近日公開されるとのことで、どうしてもこの作品だけは劇場で観ないと後悔をしそうだと思い、足を運んだ。

 

____

 あらすじ

本作のあらすじを公式サイトから引用させていただく。

 

「君が世界のはじまり」のもとになった小説「えん」と「ブルーハーツを聴いた夜、君とキスしてさようなら」は、私にとって、どうしようもなく特別な物語だ。

“青春”という箱の中に入れられるのを嫌悪していたあの頃の、胸を突き抜けて飛び出しそうなエネルギーが、すべての登場人物に詰まっている。この映画が、どこへも行けない、何にもなれない、そんな風に思っている誰かの、はじまりのきっかけになればいいと願っています。

 

____

みんなの心

 

主人公である、縁。何も悩みがなさそうで、よくいる高校生という印象だった。

松本穂香でないと縁は演じることが難しかったのではないか、と思う。終盤まで松本穂香の演技に良い意味で騙されていた。縁の目は、誰かを想っているような、でも、”誰か”に遠慮してその想いを自分の中で秘めている様な、そんな印象を受けた。

これが私が終盤まで騙されていた。と言う理由だった。側から見たら悩みがなく、勉強もでき、家族も”理想”の形だ。それでも彼女なりに抱えた何かがある。それを自分は吸収できた様な気さえするのに、実際には最後まで彼女が何を考えていたのかは分からなかった。

 

そんな”普通”の高校生の隣にはいつもある女の子がいた。琴子だ。縁とは正反対の性格をしている。スカートも校則を無視して短い。授業もよくサボる。タバコも吸っている。そして、テストの結果は琴子が最下位だ。

 

縁と琴子がどうして一緒にいるのかと不思議に思う。そして、当事者たちもそう思っている。

印象的だったシーンは「あんたはなんでうちとおるんやろうな」と、琴子が縁に疑問を投げかけるシーン。本当に疑問に思っている琴子に対し、縁の瞳には何かを訴えかけている様な、自分もよくわからないと言っている様なそんな瞳をしていた。

 

2人とは抱えている葛藤が少し異なる、純。彼女は家族に対して嫌悪感のようなものをずっと抱いていた。その嫌悪感を抱いている相手というのは、純の父だった。そんな父から連絡が来た時、純は息苦しくなる。そして、「気が狂いそう」と、検索した。そこで、たまたま出てきたTHE BLUE HEARTSの「人にやさしく」。それを聞きながらショッピングモールを軽快なステップで周囲の目を気にすることもなく、駆け巡る。あのシーンは本作でもベスト3に入るくらい好きだ。

そのままのテンションで屋上に行く純。屋上についてもなお、軽快だった。その時に映し出された空は、とても綺麗だった。何も不純物がない、綺麗で真っ直ぐな空だった。今の潤を映し出しているみたいな、そんな気さえした。

 

そこで見た光景に驚く純、そこには同級生の男の子がいた。それが伊尾だった。伊尾は、父親の再婚をきっかけに東京から大阪に越してきた。本作で登場する人物で、恐らく一番”東京”への強い執着があり、ここから抜け出したいと思っている。

ここで出会った純と伊尾はよく一緒にいるようになった。

______

怒り

 

私は、登場人物全員に対して、何をそんなにも”誰か”に怒っているのか。喜怒哀楽の激しさはどこから来るんだろうか。気持ちが切り替わる瞬間がどこにあるんだろうか。そんなことをずっと考えていた。

きっと、高校生の頃に見ていたら、感情が切り替わる瞬間や怒りに対して、そのタイミングで共感できたのかもしれない。だけど、社会に出て数年たった今、勘ぐることしかできなかった。これが大人になるということなのか。と、劇中に何度も考えてしまった。

 

「青春」とは何か。それは単に恋愛と言う括りだけでは定められない。そもそも「青春」とは学生だけにあるものではないと言うこと、それを本作を見て強く感じることができた。
青春の中には、高校生らしいとか、学生らしい、とかそのような言葉があることはおかしいとは思わない。ただ、大人も誰かと出会うことで、何か出会うことで世界がはじまることがたくさんある。それが、一瞬しかない学生の頃、どうしても受け入れたくないことや、受け入れているのに違うと思ってしまうことがあるだけなのかもしれない。そこに大人も子どももきっと関係ない。

______

大人になりきれていない自分を受け入れる

 

営業時間をすぎたショッピングモールで、縁、業平、岡田、純、伊尾がみんなでTHE BLUE HEARTSの「人にやさしく」を歌い演奏するシーンがある。弾いたこともない楽器を使って、各々が思うがままにその歌を表現し、今あるいろいろな感情を放出させている。理由はわからないが、何となく涙が出てきた。理由があるのかないのかもわからないが、眩しいと思ってしまった。


みんなが次第に、その悩みに対してきちんと向き合うことができたということが少しずつ垣間見れた瞬間だった。

 

ショッピングモールから去るとき岡田が、「俺たちってガキだな」とみんなに言い放つシーンがあった。たった一言だが、あのセリフがなければ、自分はまだ大人になりきれていない事実を、きちんと受け入れることができなかったんではないか。そう思わされるようなシーンだった。

三者からすれば、「営業時間外にショッピングモールに忍び込んだ高校生たちがはしゃいだ」だけだ。それでも、あの場にいた全員が自分の中の悩みも葛藤も、受け入れられた瞬間だった。それがどれだけ尊いものなのかは、当事者でないと感じることができない。

 

______

君が世界のはじまり

 

本作で登場する 縁、琴子、純、業平、伊尾、全員のなかに『君』が存在していた。そして、それが『世界のはじまり』だった。

 

その世界がはじまったとき、必ずしも後味が良いとは限らない。青春が爽やかなものであるとは限らないと同じように、その世界を見つけたからと言って未来が明るくなるとは限らない。

 

だが、その世界がはじまったときにはその世界に溺れてみたいと思えた。

 

私にとって、世界のはじまりのきっかけをくれたのは誰だったんだろう。辛い想いをしても、「My name is yours」と叫べる日があったんだと思うと、少しだけ心が救われる。

あの頃は嫌悪感を抱いていたかもしれない。受け入れることができなかったかもしれない。それでも、【君が世界のはじまり】を観て、あの頃の自分を少しだけ肯定できた。自分にとって、そんな作品となりました。

 

新しい世界を見せてくれた人を大切にしたいと思えるのはとても素敵なことだ。大人になった今も、君が世界のはじまり、そう言い切れるほどの熱量を持って誰かとであってみるのも悪くないのかもしれない。